こんにちは。
J.YOSHIDA CLINICの吉田です。
皆さんはFGFという人工の成長因子(増殖因子ともいう)を肌に注入してハリを出す治療や、採血をして血液から血小板という成分を濃縮分離したもの(PRP)を肌に注入してハリを出す治療があることをご存知でしょうか。これらを行っている医療施設ではこれらの治療を再生医療だと言います。
ですが、私はこれらの治療を再生医療と呼ぶのには(ウェブサイトにはそう書いていますが、本当は)かなり抵抗があります。
というわけで、再生医療と普通の医療の違いは何なのか、何故私がFGFやPRPの注入を再生医療と思えないのか、ちょっと整理してみたいと思います。
今回は再生医療とはどんな医療なのかという話です。
病気や怪我、老化などによって身体の一部が壊れたり衰えてしまうと、それまでその部位が担っていたさまざまな働きが低下して(もしくは失われて)しまい、何らかの支障が生じるようになります。
そういったものに対しての従来の医療は、手術で元に戻せる場合は戻しますし、戻せない場合は低下した機能を補うために、薬を投与したり、手術で少しでも以前と似たような状態を作り出すなどして治療を行います。
例えば糖尿病(I型)という病気は膵臓が障害されてインスリンというホルモンが出なくなり、血糖値が上がって体中の血管がボロボロになっていくわけですが、そのような場合に人工のインスリン製剤を投与して血糖値をコントロールしようとするのが従来の治療です。膵臓という全自動インスリン分泌装置が故障しているため、人工インスリン製剤の投与は人間が手動で行い、投与時間や量をしっかり管理しなくてはなりませんが、少なすぎると効果はありませんし、多すぎると低血糖などの副作用が出るなど、調節がなかなか難しいところがあります。これは不足している物質の人工合成物という代用品による治療です。
また、膀胱癌で膀胱を取ってしまった人は、腸の一部を使って膀胱のような袋を作って膀胱の代わりにすることがあります。この人工膀胱は自分の細胞でできてはいますが、本物の膀胱のように尿意を感じることはなく、排尿時に自動的に縮むこともないので、患者さんは定期的にトイレに行ってお腹に力を入れながら排尿する必要があります。自分の細胞と言えども、こちらもやはり代用品による治療ということになります。
これらの治療をもし再生医療の手法で行うとしたら、例えば皮膚の細胞を少し取ってきて、iPS技術を使って膵臓の細胞や膀胱の細胞を生み出し、それらの細胞から本物と同じ機能を持つ膵臓や膀胱を作成して、それを移植することになります。(そう簡単にはいきませんが…)
現在進行している再生医療も、心臓の細胞でできたシートを心筋梗塞で動かなくなった心臓の病変部に貼り付けて再び動くようにする、濁ってしまった角膜を切除して透明の細胞シートで置き換えることで再び光が通るようにする、といった具合に、おかしくなったものを以前の状態に戻す治療になります。
つまり、再生医療とは失われたものと同じものを追加したり交換したりして最初の状態に戻す復元治療であって、擬似的な代用品による次善の策(代用品の補充、設置)ではありません。
ただし、他人からの臓器移植は壊れた臓器と同じのものに交換する復元治療ではありますが、これを再生医療と呼ぶ人はいません。ですので再生医療と呼ぶためには、復元治療であることに加えて細胞を原材料として新たに組織や臓器を生み出す技術、という条件を付けると良いのかもしれません。
ちなみに内閣府の説明では「再生医療とは、損傷を受けた生体機能を幹細胞などを用いて復元させる医療」となっています。(つづく)